俺はイヴァンさんが好きだ。

彼はとっても大きくて、強くて、怖いけど。
それでも、彼の元で働くうちにいつしか彼を好きになっていた。

体は立派に大きいのに、時折見せる可愛らしい仕草とか、その恐ろしさからは想像もつかないような、ささやかな夢とか。
子供みたいな言動、行動、でも垣間見せる大国の儚さ、厳しさとか。
その全てが俺を虜にしてしまったんだ。







 










例え貴方がどれだけ幸せであろうとも




その日は世界会議で、俺もエドァルドも、ライヴィスも、イヴァンさんも皆、会議場に赴いた。
距離は左程あるわけでもなくて、すんなり車で向える距離だった。エドァルドが運転し、僕らは比較的に和やかに話をしながら向かうことができた。
俺はイヴァンさんの隣だった。イヴァンさんは何となく嬉しそうに見えて、顔がいつもよりも可愛らしく見える。
機嫌が良ければ良いにこしたことはない。怒られる回数は減るし、笑顔がたくさん見られるし。
運が良ければ、本当に綺麗な笑顔が見られたりもする。

「今日の会議も、うまくまとまるといいですけどね…」
「ふふふ、あの面子でまとまる方が珍しいんじゃないかな」
「まあ…そうですけど。ドイツさんあたりは大変でしょうね」
「でも、あの賑やかな会議は見てるだけで楽しいよ」
内容はつまらないけど。イヴァンさんは嬉しそうに言う。実ににこやかな笑顔だ。
話しながら、僕の視線はずっとイヴァンさんに注がれている。
エドァルドは時折イヴァンさんに返答はするものの、基本は運転に集中している。まあイヴァンさんの家の車だしね。
ライヴィスはさっきからあまり反応がない。まあイヴァンさんの前の席で緊張しているのだろうけれど。


そんな囁かな時間が流れて、会議場に車が着く。
イヴァンさんは真っ先に飛び出した。そんなに楽しみにしてたのかな。エドァルドもライヴィスも出てきて、僕と並んで会議場へ向かう。
「イヴァンさん、随分はしゃいでますね」
「最近はそうですね。…誰か、会いたい人でも居るんでしょうかね」
ちくり。
その言葉に少し胸が痛んだ。
僕が知る限りでは恋人らしい人は未だに居ない。…筈だけど。親友、ならまだ分かる。
そんなぐらついた不安な心を払って、俺達はロシアさんを追った。













会議室にはアルフレッドさんと、スイスさん、オランダさん、ドイツさん、日本さんが席についていた。
基本的に早い面々だ。

「やあ!イヴァン、今日は早いんだな」
「アルフレッド君!えへへー今日が楽しみで少し早めに来ちゃったんだー」
「俺もなんだぞ!」
イヴァンさんが来てすぐに反応したのはアルフレッドさん。
俺は意外だなあ、と思わずにはいられない。それは他の国の人も同じみたいで、ちらりちらりと彼らに視線がいく。
だって二人は仲がとても悪くて、戦争でもたびたび対峙していたくらいだから。
連合会議では喧嘩で流血沙汰にもなったことがあるらしい。(以前アーサーさんがため息をついていた。

仲が良くなったのかな?いつの間に…?
それにしても、ちょっと羨ましいくらい仲が良さそうに話している。会話までは届かなかったけれど、イヴァンさんがとても楽しそうなのはわかった。 
それから、会議が始まっても時折アルフレッドさんはイヴァンさんのことを見つめていた。
もしかして。もしかして、彼は……。
イヴァンさんとはまた別の感情を抱いているんじゃないのかな、なんて予感。
だって、アルフレッドさんの視線にイヴァンさんが返すことはなかったから。
眼中にない、ってこういうことを言うんだろうか。




もやもやした俺の感情を持ちこして、会議はやっぱりぐだぐだで終わった。
会議が終わるなり、イヴァンさんは俺達に「ちょっと用事があるから、さきにご飯でも食べてて」と言った。
俺はイヴァンさんと一緒に食べたかったから、少し残念だった。
「用事かあ。ま、そっちの方がライヴィスは落ち着いて食べられるかな」
なんて、エドァルドは笑っている。けれど、俺はなんだかざわつく気持ちを抑えられなかった。
「ねえ、二人とも。俺、ちょっとポーランドと話してくるからさ。今日は二人で食べてきていいよ」
「…そっか。ま、長過ぎてイヴァンさんより遅くならないようにね」
「うん、分かった」
エドァルドは頷いて、ライヴィスを連れて会議室を出て行った。
俺はこっそり、イヴァンさんが向かった方へと足を向ける。

すると、突き当りの部屋についた。
中から声が聞こえる。たぶん、イヴァンさんだ。誰かと一緒に居るみたいだ。扉がうっすらと開いていて、僕はそこからこそりと覗き込んだ。
(!…アルフレッド、さん?)
なんと、想像に反してイヴァンさんはアルフレッドさんと一緒に居た。もしかして、二人が仲良くなったのは何か、二人でしているから、なのかも。
俺は二人の様子を眺めていた。幸い、廊下には誰も残っておらず、声は思っていたよりもよく聞こえた。


「しかし久しぶりだなあ。君とこうして会えるのも」
「うん、僕も君に会いたかったんだ。電話とかメールじゃ君の顔は見えないしね」
「それに、君にも触れられない……」

………?
なんだろう。これ以上は見てはいけないような。警告染みた予感がする。
アルフレッドさんがイヴァンさんにそっと近づいて、そっと大きな体を抱き締めて…。
イヴァンさんは拒むでもなく、それを受け入れる。二人の顔が近づいて―――

……キスを、した。
キスは元々ロシアの正式な挨拶だ。昔はロシアさんもしていたらしいけど、今では握手にとどまっていることも知っている。
触れるだけのキスならまだ分かった。けれど、二人は更に何度も口づけて、深く絡み合っていた。
これが二人の仲をなんであるか、示すように。

「……は、ぁ…」
口が離れて、壁に押し付けられたイヴァンさんは、見たこともない色っぽい顔をしていた。
「何だか我慢してたのが嘘みたいだ。……ん」
「ちょ、なに……」
アルフレッドさんはそのまま首に顔を埋めた。ちゅ、とリップ音がしたから、キスマークでもつけたんだろう。
イヴァンさんは顔が赤いまま、息が上がっている。
「触れても…いいかい?」
「で…でも、ちょっとだけって言ってきちゃったし…」

そうだよ。だからもう、帰してほしい。僕らの、僕の元に、イヴァンさんを。
気付かないうちに、俺はギリギリと指を口に加え、必死に漏れそうになる声を抑えていた。

「いいじゃないか。またいつこうして触れ合えるか分からないんだし」
「ん………」
アルフレッドさんの強い押しにイヴァンさんは断りきれず、ずるずると服を脱がされていく。
コートをはがされ、やがて見えるのは白い雪のような肌。
「なるべく…はやくして、ね……はぁ」
イヴァンさんの柔らかそうな腕が、そっとアルフレッドさんの体に回った。
「ああ…でも、一秒でも長く、君に触れていたいよ……」

ああ。なんてことだろう。
覗き見をしている僕とは全く違った、異次元の様な切なく甘い世界で、二人は抱き合っている。
そして、俺は気付いた。会議の時、アルフレッドさんの熱烈な視線にイヴァンさんが返さなかったのは、二人の仲を知られない為だったのだと。
きっと、本当はすぐにでも、視線だけでも合わせたかったに違いなかった。
イヴァンさんの白い肌が紅く染まり、アルフレッドさんの肌と重なり合う。
自分の指から、鉄の味が広がった。
「ああ……アルフレッド君……やぁ…」
「はあ…可愛いよ、イヴァン…俺の、イヴァン………愛してる…!」
「うん…もう……きて、アルフレッド君……!」
ギッ、ギシ、と机が軋む音が響く。
「んああ!や、あああ……ッ」
一際大きな声が響いて、イヴァンさんの声が更に艶めいた。
それ以上は耐え切れずに、俺は耳を塞ぐようにしてトイレに駆け込んだ。




それから暫くして、車に皆が合流した。
イヴァンさんは何だか顔がほんのり紅くて、それは扇情的だった。けれど、それが誰の為になったのかと思うと素直に喜べなかった。
イヴァンさんはアルフレッドさんに抱かれていた。二人は付き合っていたのだ。
恋人が女性だと決めつけていたことは、大きな間違いだった。
イヴァンさんはああいうことにはとても疎いと思っていたから。猶更ショックは大きかった。
「どうしたの、トーリス。疲れたの?」
「ええ……まあ」
「じゃあ、車出しますね」
車が走り出して間もなく、イヴァンさんは音も無く眠りに落ちた。
ただ、自分で傷つけた指がじくじくと痛んでいた。
それきり、家に着くまで会話は何もなかった。

















その夜。
イヴァンさんも自室に戻り、会議の報告書だけまとめて、部屋の明かりを消した。
俺は静かに自室に戻る道を引き返し、イヴァンさんの自室へと足を向けていた。
コンコン。無機質な音が廊下に響いた。
「……誰?」
「俺です。トーリスです。イヴァンさん」
イヴァンさんは既にベッドに入っていて、少し眠そうな目をこちらに向けた。
「俺、イヴァンさんに今すぐ確かめたいことがあって」
「ん…なあに?」
俺はそのまま、ベッドにつかつかと近寄った。そのまま、彼の服に手をかける。
「!!」
びりっ、と音がしてイヴァンさんの服が破れた。白い肌には、確かに夢ではなく、あの行為を思わせるキスの跡。
「な……なに!?トーリス」
イヴァンさんは驚いて目を見開いた。何て綺麗な瞳だろう。けれど、もう手は止まらない。

「イヴァンさん。黙って俺に抱かれてください」
「なに?なんで……?トーリスっうう、ん!」
無理矢理唇にキスを繰り返し、イヴァンさんの抵抗を弱める。
次第に顔に紅が差し、ベッドに沈み込む体。静かに抱き締め、俺も服を脱ぎ捨てた。
「やだっ、トーリス!離し……いやあっ」
一際大きく、びくんと体が跳ねる。それもそのはず、イヴァンさんのしっとりした性器を握ったからだ。
それはすぐにぐちゅ、ぐちゅりと嫌らしい音を立てる。
イヴァンさんは首をふるふると振るって、涙を溢した。
「止めてよぉ……やだぁ……ひっ」
そして俺は、ごそごそと自分の高ぶった性器を取り出し、慣らしもせずにそのまま埋め込んだ。
「やああっ!!抜いて、えぇ………」
案の定、アルフレッドさんとの行為で慣らされたそこはすんなりと受け入れた。
それが悔しくて、堪らない気持ちになって、イヴァンさんが気絶してぴくりともいわなくなるまで、僕は彼を犯し続けた。



この気持ちが受け入れられないことなど、分かっている。
あんなに幸せそうなイヴァンさんを見てしまったから。
それでも、それでも。
「僕は…イヴァンさんがずっと…、好きです…」




好きなんです、
伝わることのない想いは、ぽろりと滴になって落ちた。
















End

報われない立露。 米露が日向なら立露は日陰みたいな関係
「水道管ともみあげ」はどこまでも報われなさがループしてる気がする。
2013,8,22






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