黒騎士の眼







瞼が重い。
酷く、眠気が近付いてきているのか。
やっぱりくそ苦いコーヒーくらい胃に入れておくべきだったな、と思う。
ちっ、と微かに舌打ちした途端に何処からか勢いよく銃声が上がった。
仲間が一人、撃たれたなと直感で察する。


カチッ、と引き金を引く準備に自らも入る。
幾度となく、この行為を繰り返して何人もの命を奪ってきた。
手付きもあれから随分慣れた様に思う。心を静かに研ぎ澄まし、その時を待つだけ。
煙草の匂いが鼻を掠めていく。酷くそれが落ち着くのだと分かっているから。
大丈夫、呼吸も乱れる事はない。

「――馬超、準備はいいか」
「あぁ、いつでも構わないぞ」

合図がざざっと聞こえ、答えると攻撃開始の合図が出された。
恐らく通信を本拠地からとっているのは、諸葛亮の子弟の姜維なのだろう。声がやけに弾んでいて楽しそうに聞こえる。
自身の拳銃のリアサイトを確認してから、がつっと衝撃を手に打ち込む。何ら変わりはない。
無論、用心金など引いていない。いざという時に素早く撃てないからだ。
ボルトリリースレバーを確認し、バースト用の連弾をポケットに押し込んだ。
準備万端。後は引き金を引くだけだ。



「よし、確認終了。乗り込んでくれ」
「了解」
「…あと、そっちにもう一人相棒を送ったから、協力してやってくれ」
「仕方ねぇな」
ジジッ、と煙草が滲む音がして、地に落ちる。それをぐし、と足で踏み潰す。
「頼んだ」
「敵の総数は」
「…ざっと見積もって50人程度」
「ふん、すぐに終わる」
「ああ、気は抜くなよ」
再びざざっ、と音が掠れ、通信がふいに途絶える。
すると背後でがつんと何かがぶつかった様な音がした。

「黄巾族の奴らを撃つんですね、腕が鳴るな」
「やっぱり言わずとも来るんだな、お前は」
「馬超なら背中を預けられるんでね」
にやりとほくそ笑むのは、小型銃を幾つも操る腕を持つ趙雲。
ポケットには弾薬以外に、幾つもさまざまな拳銃が装着されている。
一番頭領に頭を垂れている、手玉にし易い男である。
最も、彼となら気兼ねなく動けるという事もあるのだが。

「睡眠薬、吐いておきましたか」
「そんなもんあったか」
「先ほど飲んだでしょう、甘ったるい水」
「……図られたか」
馬超は思わず手を口に当てる。道理でかなり瞼が重かった訳だ。
今日はやけに感覚が鈍い気がしないでもない。
「ですよ、その様子じゃ吐いてませんね」
「当たり前だ、コーヒーでも飲もうか考えてたんだからな」
「悠長だ、あまりに。……溝打ちでも一発食らいますか」
「…いい、自分で始末くらい出来る」
そう答えてから、喉元までくっと付き上げ、角に吐いておく。
何だか口惜しい気もして、代わりに辛いガムを口に放り込む。
慣れた事だ。毒を盛られるくらい、しょっちゅうされていて慣れっこなのだから。
チィン、と銀のクロスペンダントが弾かれる音が響く。
「残念。馬超に一発食らわせられるのって滅多に出来ないのに」
「そう簡単に食らってやるか」
そう吐き捨てる様に言ってやると、くくっと趙雲は笑みを漏らす。
「……さ、準備はいいんでしょう」
「勿論だ」
「姜維がジャスト10分で終わらせたらご褒美だとか」
「んなもん期待するな、アホ」
「酷っ」
ガチッ、と銃の不具合を確かめてから、頷き合う。
いつでも出れる。体制はいつも通り、不具合もない。
「バレルの変化は」
「ない」
「じゃあOKだ」
「―――いくぞ」
「はいはい」 
二人して族が潜む建物に忍び込むと、ぞくりと寒気が全身を覆った。 





I have a big gun I took it from my Lord

Sick with Justice I just wanna feel you

I'm your angel Only a ring away

You make me violate you No matter who you are

It's all up you No one lives forever

Been burn the hell By all those pigs out there

It's allways been hell From when I was born

They make me violate them No matter who they are

Get down on your knees Get a good head on your shoulders

If it's for your guys Go to the end of the earth

Do what you think Give it with dediction

I'll put out your misery







二人で入り込めば、後は容易く終わる。
銃弾が壁を撃ち抜き、生の肉体を撃ち抜く。
この感覚が堪らなく良い。だからこそ、止められないのだ。
部屋に飛び交う悲鳴は、先程までの部屋の静けさを完全に打ち破っていた。
先程から噛んでいたガムは味をなくし、辛味もない。その場でぺっと吐き捨てる。
「今更だが、ランヤードリング付けてないだろ、お前」
「よく分かったな」
「落としても替えはやらねぇぞ」
「けち」
趙雲はふっと呟いて、すぐにまた連弾に手を移した。切り替えは早い。

「うわぁぁぁ……助け、助けてくれ……ぎゃッ」
「ばーか。誰が悪党なんざ助けるんだよ」
思い知れ、とばかりに銃口を突き付けてやるだけで相手は怯え、涙を滲ませる。
何処までも矜持を傷付け、粉々にしてから完璧に打ち砕いてやる。きっとそれは快感以外の何物でもないだろう。
舌を無邪気にちろっと見せ、頬に飛び散った血を舐めると鉄臭くてやはり艶めかしい、変わらない味。
本当に堪らない。ぞくぞくした感覚が身を覆うから。
趙雲が髪に手を掛けて、あくびを見せた。完全に睡眠薬が抜けきっていないのか。
腕を軽く捲るだけで、黒々とした刺青が浮かび上がって見える。
「あと何人、殺れば良い?」
「んーと、今10人目」
そう言って、趙雲はパァンと乾いた音を響かせる。すかさず転がり落ちてきた死体を踏み付け、んべぇっと舌を出して見せた。
「そうか、じゃあ後は半分こにすっか」
「そうですね、賛成しときますか」
趙雲は殺傷率の高い鋭さを持つワイヤーをぶわっと掌に広げる。
かつっ、かつんとぶつかる軽い音がして、壁に針が食い込んだ。ぎしりとそれらが締まる音が聞こえる。
「半分以上殺ったらお前も殺るぞ」
「……確実に半分で大丈夫だと思ってんですか」
そりゃあんまりだ、と手をふる趙雲を無視して、再び拳銃を放つ。
パァンパァンと良い音が鳴る度に、どさどさっと死体が転げ落ちてくる。
「なーんだ、ちっとは腕立つ奴が居るかと思ったのになぁ」
ワイヤーをくっと引くだけで相手の首が幾つもぼとぼとと落ちてきた。
辺りが血の海に染まるのも時間の問題だろう。足場も無いくらいの死体と血で埋まり、部屋は塵捨て場の様に無残な光景を晒していた。
すさまじい死臭が彼等を包み込んでいるのが分かる。
「黄巾族も大した事ねぇな」
「ひぃぃッ!!!」
「居るのは黄色のヒヨッコ、ってーとこですかね、シングルで十分だ」
「上手いな、そう呼ぼうか」
「大体張角の野郎はどっか行ってるのかよ」
「さぁ、そこは私も知りませんし上からも聞かされてませんねぇ」
またもガァン、と撃ちながら会話し合う二人の姿は周りから見れば十分異様だ。
それが余計に相手を刺激したのかもしれない。数人が建物の外に逃げ出したのだ。

「――――逃がさねぇよ」

チャキ、と連弾を新たに撃ち込むと、勢いよくそれを馬超は放つ。
パンパンパン、と幾度も重なって音が響き、外に出た瞬間彼らは動かない死体となった。
パラパラとエジェクションポートから空薬莢が落ち、カンカンカン…と地面に落ちる。

「さっすが馬超殿、全員一度で殺りましたね?」
ひゅう、と軽く口笛を鳴らし、遠くを見据えて趙雲は感嘆の声を漏らす。
「背を見せたらすぐに負けだ。お前も向けてくれるなよ?」
にやりと笑うと、覚えておきましょう、と趙雲は次の相手を撃ちにかかった。
「今日はどうも感覚が鈍ってやがる」
馬超は軽く欠伸をし、涙を拭ってぼそりと呟いた。背骨がパキポキと音を立てる。
「あぁ、さっきの睡眠薬の事ですか」
「それもある」
「ありゃ、ハロキサゾラムだと思ったけどな。…寝てなくて良かったな、馬超」
「……全くだな、どおりで集中力に欠ける訳だ」
「じゃあ、これ食いますか」
趙雲はごそりとポケットを再び探る。本当にいろんな物を入れている様だ。
「何だ、それ」
「携帯チョコ、目が覚めるかと」
「そりゃ、腹が少しもつだけだろ」
「そうとも言いますね」
「馬鹿野郎」
ざらっと小さなケースから出され、趙雲から差し出されたものを、一つだけ摘まんでぱくりと食べた。
途端に甘い様な、苦い様な味が口の中で仄かに広がる。
「……甘苦い」
「当たり前でしょ、チョコなんだから」
そう言って苦笑いした趙雲もチョコを一粒口に含み、また走っていった。
馬超も軽い拳銃をくるっと回し、次の相手を探しにかかる。大分数は減ってきた様だった。






Have no prayer So, I keep the gun with me

For my safety I'll do it with no sweat

They mean business No time for sissy pig

Queen of ocean Sing "THE Volga" to you

No need think about it You do it or you die

Those aren't tears Don't let it trick on you

I am hard as steel Get out of my way









――――太陽が夕暮れに差し掛かる頃。





建物の傍の水面が静かに揺れていた。
風が先程よりもだいぶ強まっている気がする。

「ジャスト10分、ですか」
「まぁ、そうだろうな」
馬超は連弾を再びポケットに詰める。こうしてでもおかないと何だか気が済まないのだ。
「ご褒美貰いますか、馬超殿」
「いるか、そんなもん」
「つれないですねぇ」
趙雲は甘そうなドロップを口に含み、カラコロいわせている。
もう一個袋から取り出し、馬超にいるかと進めるが、断るともう一回口に放り込んだ。
どうせ以前貰った時も大したものではなかった。それならどうでもいいし、受け取る気すらない。
「ほら、たまにあいつでも気が変わる時だってあるだろう」
「それが気まぐれで付き合いきれんと言ってる」
「ちぇー」
趙雲は拳銃をしまい込み、それから馬超に静かに体を寄せる。
「暑苦しい、馬鹿」
「いいじゃないですかぁ、寂しかったんですよ…」
「俺は別に……」
「馬超の嘘つき」
「煩い、自惚れてろ」
「溜まってたんじゃないですか、馬超だって」
そういって静かに衣服の上からそれを擦り寄せる。
「ッ、」
「此処でやるのは勘弁しておきますがね、帰ったら覚悟して下さいよ、ええ?」
「全力で逃げてやろうか」
「辛いのは後ですよ」
全く大した自信があるな、と諦めてやると、趙雲は唇を強請ってきた。
しょうがなく答えてやれば、口に甘い香りと味が広がった。先程まで舐めていたドロップの所為である。

「……お前、さっき何か入れてたろ」
「ありゃ、鈍ってたんじゃなかったんですか」
「今、気付いた」
「分かりますか。アンドロゲンの強めのやつを含ませておいたんですがね」
「…あれだろ、さっきのチョコ」
「よくお分かりで。…勿論、私も食べましたがね」
にやり、と笑う口元には悪ふざけにしては過ぎた代物だ。
つまりはお前も俺も、という事なのだろう。
「も一回、頂いていいですか」
「何を」
「これ」
言うが早いか、もう一度深く口付けをされる。
白い髪を優しく引っ張られ、顔を仕方なく傾けてやる。そして手を絡め取られる。
今度は奥深くまで舌が入り込み、くちゅくちゅと音を立てた。
仄かに水音が耳の奥で聞こえる。眩暈と共に。
「………ふ」
馬超は僅かに唇が離れたところを見計らって、すぐに口を離した。
すると趙雲は名残惜しそうに、
「馬超の口は苦いです」
と口を擦った。
「煙草だろ」
「ですかね」
「まだ、足りないな」
「何を、………ッ」
「私はご褒美、貰いたかったんですよ、本当は」
そう呟くように言われて、耳を甘噛みされる。ぞわり、と体が嫌に反応してしまう。
「じゃあ……貰いに行けば、いいだろ……っ」
「いいです、私はやっぱり貴方からご褒美を貰いたいので」
くすくす、微かに漏らす笑い声が憎たらしいくらい聞こえる。
そしてずるっと体を崩された。
「おいっ、此処は―――」
「馬超は、今日何人殺りました?」
「っ……今聞くのかよ、それを」
「誤魔化せませんよ?半分より多く殺ったでしょう」
それを聞き、やはり数えてたかと舌打ちせずにはいられない。
「私だってもっと殺りたかったのに」
「煩い……」
「だから、代わりに貴方からご褒美を貰い…いや、奪わせてもらいます」
「戯言を………」
呆れた、と溜息を洩らす馬超をお構いなしにその場で噛み付く趙雲は、暫しそれを止めなさそうだ。
悔しいが、約束を破ったのは此方の方だ。
仕方なしに、馬超は暫く趙雲の好きにさせてやる事しか出来ないままだった。





Pay back all at once Suck away the tender part

You made a mess For Christ sake, this rotten warld

Shit out of luck Go with my vision

Light up the fire Right on the power

Weapon…I have it all












「姜維。彼らは、まだ帰ってきていないのですか?」
諸葛亮は待ち侘びた、と言う代わりに遠回しに姜維に問う。
「ええ」
姜維は眠たそうに答える。無線の通信などとっくに外していた。
鼻を擽るのは恐らく苦めに入れたコーヒーの所為だろう。
「そうですか、ご褒美はいらないんですかねぇ」
「どうせもう頂いてますよ、趙雲がね」
「…そうかもしれませんね」
「私も少し、頂きたかったですねぇ」
「?」
いいえ独り言ですよと呟いて笑うと、無粋な事を言うものではないですよ、と返された。
聞いていたならそう言ってくれればいいものを、と思わず姜維は苦笑する。

くっ、と笑みを零すと、姜維は空を見据えた。
もう既に西の方へと傾いた日は、彼らが帰ってくる頃には完全に落ちていそうだ―――――、
そう思ったのだった。








End


何気に思い付いて書いてしまった暗殺者パロ………上方は諸葛亮です、おそらく。んでもって敵さんは黄巾党から頂いてます。張角出せなかった……すまん
やっぱり最後は趙馬です、そこは愛ゆえに変わりませんね(馬鹿
普段はこんなパロ系は書かないんですがね、ふと書きたくなってつい。ブラックラグーンが結構好きだったので…
以外に思いついてからすぐ書き終えましたー後からつけ足してみたら多分小二時間くらい。
ちなみにハロキサゾラムは長期型の睡眠薬、アンドロゲンは媚薬の一種だったりします(ォィ 2010、3、26

バレル…銃身
エジェクションポート…排莢口



↓抜粋したRFの訳。

I have a big gun I took it from my Lord
<でかい銃だろ?  こいつは神からぶん取ったもんさ>
Sick with Justice I just wanna feel you
<正義なんて吐き気がする どこにいようが俺が嗅ぎ付けてやる>
I'm your angel Only a ring away
<俺は天使  でも連れて行く先は天国じゃなくて地獄だけどな>
You make me violate you No matter who you are
<てめぇがどんな野郎かなんて知った事かよ ただ殺るだけだ>
It's all up you No one lives forever
<まだ死にたくないか? ま、死なないヤツなんて居やしないがな>
Been burn the hell By all those pigs out there
<地獄の業火が あんたらブタどもを焼き尽くす>
It's allways been hell From when I was born
<生まれてから、俺はずっと地獄を見て生きてきた、今でもな>
They make me violate them No matter who they are
<例えどんな奴らだろうと  俺が全部殺ってやるさ>
Get down on your knees Get a good head on your shoulders
<這い蹲りな、モノを考えられるアタマがあるんならな>
If it's for your guys Go to the end of the earth
<仲間の事を思ってるのなら、地の果てまでも逃げてみなよ>
Do what you think Give it with dediction
<自分の身を投げ出してでも、気の済むようにやりゃあいいさ>
I'll put out your misery
<そしたら、俺がてめぇをひと思いに楽にしてやるさ>

Have no prayer So, I keep the gun with me
<神に祈っても無駄無駄 そんなことをしても俺は銃を手放さない>
For my safety I'll do it with no sweat
<こっちは殺る事なんざ何とも思っちゃいないんだ>
They mean business No time for sissy pig
<奴等は本気なのさ さあもう 女々しいブタに関わってる暇はないぜ>
Queen of ocean Sing "THE Volga" to you
<三途の川の渡し守が舟歌を歌っててめぇを待ってる>
No need think about it You do it or you die
<何も考えることなんてねぇさ、殺るか殺られるか、さ>
Those aren't tears Don't let it trick on you
<泣こうがわめこうが、誤魔化されないよ 現実はこうなのさ>
I am hard as steel Get out of my way
<俺には鋼の意志がある 俺の目の前から消え失せな>

Pay back all at once Suck away the tender part
<今までのツケは全部払ってもらう 優しさなんて反吐が出そうだ>
You made a mess For Christ sake, this rotten warld
<滅茶苦茶にしやがって…もうまっぴらさ、こんな腐った世界なんて>
Shit out of luck Go with my vision
<あの世でせいぜい俺のやること見てな>
Light up the fire Right on the power
<強さだけが正義だってな、燃える炎が証明してくれるだろうさ>
Weapon…I have it all
<銃…俺にはこれしかないから>



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