愛情色ドロップ







「いらっしゃいませ」

丁寧に迎えられて、いつもの様にNは案内された席に座った。いつものおやつの時間である。
此処へ来るのはもう慣れたもので、すっかり此処では常連の客だ。

「今日は何にします?」
その店を切り盛りする三つ子の家の一人、デントはいつもと変わらない笑顔でメニューを差し出した。
「うーん…じゃあ今日はフルーツゼリーでもお願い」
「かしこまりました」
暫くお待ち下さいと言われ、置かれた冷たい水を一口飲む。店内はやはりいつもの様に賑やかで、特にこれといって変わらない。
(慣れたものだなぁ……僕も)
Nはぼんやりとそんな事を考えていると、目の前をぴょこんと一匹のポケモンが現れた。デントのパートナーだという、ヤナップだ。
ヤナップは客の使った後の皿を何枚か積み重ね、おそらく厨房へ持っていくのだろう。
少し危なっかしいものの、お皿を運んでいく姿はとても可愛らしく、客も携帯などで写真を撮ったり、和んで見ていたりした。
それはバオップやヒヤップも同じだった。


Nはヤナップがお皿を運び終え、やがてNの注文したフルーツゼリーを持ってきたのを見て、
「ねぇ、ヤナップ」
と離しかけると、
『なぁに?』
と答えが返ってきた。
「君は、デントのパートナーだったよね」
『そうだよ』
ヤナップもまた、デントと同じでNがよくこの店に来るのは知っていたので、Nの前に大人しく座った。
「……君は今、幸せ?」
ぽつりと聞いてみた言葉に、ヤナップはすぐに
『勿論、とっても幸せだよ!』
と言った。
「それはどうして?」
とNが聞けば、
『デントはバトルで勝つと僕の大好きな木の実をくれるし、負けても優しく撫でて励ましてくれるんだ。僕はそれがとっても好き』
「へぇ、デントって優しいんだね」
『そうだよ、それに…』
「それに?」

『デントが幸せなら、僕も幸せだから』
嬉しそうに、本当に嬉しそうに、ヤナップは言う。
「……そっか」


Nはその答えを聞いて、ふとあの少女の事を思い出した。
少女の連れていたポケモンもまた、
『僕はこの人と一緒に居たい』
『この人と、強くなりたいんだ』
と言っていた事を。
何も顧みも求める事なく、互いに居たいから居る、という関係。
いつしかその信頼関係を、羨ましいとまで思った。


Nは今度は少しからかう様に、聞いた。

「じゃあさ、もしその主人が居なくなってしまったら…君はどうする?」

するとヤナップは少し考えてから、
『デントが居なくなったら、僕はきっと生きていけないよ』
ときっぱりと言った。
「…それは生活する上で食糧とか、そういう?」
『ううん、きっとデント以外の人とは一緒には生きていけないって意味だよ』
僕の幸せはデントと一緒に居ることだもん。
ずっと前は森に居たけど、その時よりもずっとずーっと幸せだよ。
ヤナップは純粋に、デントの事が大好きなのだ。
そして多分、その言葉に嘘は全くない。

「ヤナップはデントのこと、どういう風に思ってるの?」
『パートナーで、主人で、家族だよ』
「ポッドやコーン、バオップやヒヤップは?」
『勿論大切な家族だし、友達だよ』
「…君には家族がたくさん居るんだね」
Nは自然と笑みを零す。もともとあまり表情が変わらないNにとっては、相当珍しいことである。

『Nには?大切な友達や家族は?』
「僕?僕はね…」

父さん、プラズマ団の皆、………

「居るには居るけど。…正確には居た、かなぁ」
軽く笑って誤魔化そうとすると、ヤナップはNを覗き込む様に、
『その腰のモンスターボールは?』
「……ゼクロム」
モンスターボールを見ると、Nの瞳を見透かす様なゼクロムの瞳。その瞳は何処か優しくて、Nの事を何でもお見通しの様で。
他のポケモン達もまた、同じだった。Nの事を一人じゃないでしょ、といった様な目つきで。
今まで共に闘ってきて、そしてまたこれからももう少しトモダチで居てくれる?と言ってみたら勿論、と言ってくれた、彼ら。

「そうだね。僕にも大切なトモダチが、たくさん居るね」
『Nの事、よく分かってくれてるんだね』
ヤナップも嬉しそうに笑う。
「ありがとう、君もデントと幸せにね、ヤナップ」
『Nもね!』


じゃあごゆっくり、なんてデント達の真似をしてデントの元へ嬉しそうに駆けていくヤナップを見送りながら、注文したデザートを食べる。
デザートはとても甘かった。





End


Nはポケモンの気持ちが分かるので...ふと きっとヤナップはデントと居れればそれだけで幸せなんじゃないかなぁ. 2011,3.18



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