夢が産み落とした快楽をもう一度














……耳が、遠く聞こえる。

「……っああ、やぁ……!」」
「……」
ギシ、ギシッ。ベッドのスプリングが軋む音がする。
自分は何をしているんだ?
ぼんやりとする意識の中で、下半身に熱がじわりと溜まっていくのが分かった。
「あ……アルフレッド…くぅん…」
体に縋るように伸ばされる手。しっとりと汗ばんだ体を絡め、揺さ振っているのは俺?
柔らかい肉が擦れ合う音、卑猥な水音で満たされる室内。耳から脳まで染みわたる、強請る様に甘ったるい嬌声。
その声が、何度も俺の名前を呼び、喘いでいる。
「はぁ……はぁ…」
「もう………きてぇ…」
涙をぼろぼろと溢し、切ない目が更に細められていく。

「……イヴァン…!」
今、自分は何と言った?
暗闇で揺さぶられる熱い熱い体。酷く熱を持ちながらも、その柔らかな肌は雪のように白い。
その相手が、イヴァン?
深海の様にどこまでも深い紫紺の瞳。月明かりに照らされて、美しく散らばるプラチナブロンド――









がばっ。


「………」
なんて夢だ。
「Oh…嘘だろ」
あんな浅ましい夢を見て、自分の体は……既に形を成していた。
朝から酷い目覚めだ。
相手が女性ならまだ健康だと言い張れるものの、相手があのイヴァン。
自分の唯一の天敵とも言える相手だった。
(けど……)
想像したこともなかった彼のあんな姿を思い出すと、余計に体には熱が溜まるばかり。
恐ろしい程の色気が、あの時の彼にはあった。
そして同時に、強い快感も。
(実際に抱いたら、あんな顔をするんだろうか)
普段ならばそんなことを考えることなどなかった筈だったのに、夢が夢だっただけに、アルフレッドの思考はあらぬ方へと及んでいた。
更に最悪なことは重なり、今日は連合会議の日だったことを彼が思い出すまで、あと一分。






「はぁ……」
「どうした、腹でも下したか」
「アーサー!そういうんじゃないよ」
下品なこと言うなよと軽く笑う。アーサーは心配してくれたのだということは分かったが、とてもあんな夢の相談はできない。
「ちょっと、嫌な夢を見ただけさ」
「ふーん。夢なら夢でいいじゃねぇか」
「アーサーはあっさりしてていいな」
けれど、あんな夢を見たら誰だって引きずるに決まっている。
おまけに翌日にその相手と顔を合わせなくてはいけないのだから、気がめいるのも無理はないのだ。
喧嘩をするとか、泣かれるとか、罵られるくらいの夢だったら良かったのに。まさか抱いてしまうとは。

(う、考えてたらまた……)
一応朝出てくる時に、溜まっていたものは吐き出してきたのだが、それも再び溜まり始めているらしかった。
「最近ご無沙汰してたからなあ…」
「なにがご無沙汰だって〜?」
「うわあ!?」
いきなり背後から聞こえてきた声に、アルフレッドは勢いよく飛び退った。
「どーしたのよ。そんなに驚くことだった?」
「い、いや…その」
「ま、いいけどさ。そろそろ時間だから、早く会議室に来いよなー」
「わ、わかったよ!」
会議室。遅れても来ない限り、イヴァンも居るに違いない。正直、顔を合わせたくない。
しかし時間は無情にも刻々と迫ってきているのであって。意を決して、アルフレッドは扉を開けた。
「お、来たな。じゃ始めるぞ」
「あ…うん」
いつもと変わらない会議室の面子。王耀は「遅いあるよ美国」と言っていたが、イヴァンはこちらをちらりと一瞥しただけだった。
その冷たい瞳に、熱がこもる瞬間を、見たいと思った。













「……どうしたアルフレッド、今日はやけに静かだったじゃないか」
「…まあね」
「疲れてるなら、さっさと寝ろよ」
「分かってるよ」




そんな言葉を繰り返し、アルフレッドは休憩室に入った。そこには。


「……イヴァン」
「なあに、アルフレッド君」
特に興味があるわけでもなさそうに、酒を煽っている彼がいた。
「なあ、イヴァン。俺な、君の夢を見たんだよ」
「…へえ。なに、殴り合ってる夢とか?」
くすり。微笑まれたその艶やかな唇に、アルフレッドは噛み付いた。
ちくりと痛みが走って、強いアルコールと血の匂いが混じる。なんて甘い。
アルフレッドは深く、深く口付けた。
「こういう、夢だよ」
紫の瞳が、信じられない程に見開かれた。


「ちょっと…離してよ……んんっ」
「駄目だぞ」
彼の弱いところをじわじわと責め、愛撫を施していく。
そのおかげで彼は力が出ないらしく、ただアルフレッドに身を預けされるがままになっていた。
白い肌に吸い付くように唇を寄せれば、面白い程桃色に染まっていく。
混乱と恐怖で震える体に、不思議とアルフレッドの体は熱を上げていくようだった。
ぴくりぴくりと抵抗を見せる手の平を掴み、押さえつけ、ぺろりと舐めるとイヴァンはびくりと肩を震わせた。
「面白いね。こんなところでも感じるんだ?」
「っ…気持ち、悪いんだよ……君」
「へえ?」
今度は耳。舐るように穴へ舌をねじ込めば、震えるような声が漏れた。
額にも首筋にも、手のひらにも汗がじわりと染みて、どこかしょっぱい味がした。
それでも体に顔を埋めると、やはり酒の匂いが染みついているようだった。
「酒の匂いがする…」
「そりゃあ…ね。毎日飲んでるもの」
「…このアル中」
体に良くないんだぞ、と言うがイヴァンはどこか苦しげに笑うだけだった。
(…そろそろ限界かな)
俺も、君も。
ゆっくりとコートに手をかけ、ズボンを下ろしていくと、確かに苦しげに熱を溜めた証があった。
「! やだ、何するの…っ」
「何って、このままじゃ苦しいだろう?」
「だっ、誰のせいだと…」
「俺のせいだろ?」
その答えに、恨めしげに眼が細められた。どこかその眼は潤んでいて、熱を助長させるものにしかならない。
くちゃ、と手でそれを掴むと、彼は驚いた声を上げた。
「ほら、こんなになってる」
「………」
イヴァンはどこか遠い目で自分の体の状態を見ていた。息は依然として荒かったが。艶やかな唇に、一筋の血が流れて、酷く扇情的に映った。


何度も彼の自身を愛撫していると、次第に濡れてぐじゅぐじゅと音を立て始めた。
「……っふ……」
「声、出してもいいんだぞ」
「や、だょ………っうぅ」
「気持ちいいんだろ?」
それを認めたくないとでも言うように、彼は必死に手で口元を抑えている。
「イヴァン……」
「っふ、う、ぅン……ッ」
手をどけ、貪るように口付けをすれば、目元に滲んだ涙がつうと伝った。自分自身も限界が近付き、自分の自身と彼の自身を一緒に擦り合わせた。
「っ!い、や………ァ、あ」
彼は顔を振っていやいやをする。その為に白く曝け出される首。その首に噛み付くと、びくりと肩が揺れた。
(まずいな……本当に止まらない)
予想以上に、イヴァンの反応が生々しく、夢以上に強い快楽。
(そろそろかな…)
お互いのものから零れた液体と、ポケットに忍ばせてきた携帯用ローションを手に取る。
イヴァンはそれに気づかず、荒い息を繰り返し天井を見ていた。アルフレッドはそっと彼の蕾を探し当て、そこにひたりと液体を塗った。
「!な、なに……するの…!?」
驚いたように、イヴァンが下を見た。
「何って、俺の見た夢の通りさ」
「ねぇ、アルフレッド君…嘘、でしょ……?」
信じられないといった瞳が、真っ直ぐにアルフレッドを捉える。
その体を無理矢理倒し、尻を高く上げさせる格好にする。その間に、ぐちぐちと液体を塗り込み、指をぐっと押し込んだ。
「!!いっ……止めて…っ」
「止めないよ」
ここまできたら、もう止められない。体も、心も。
「やだよ……痛い、痛いよ……っ」
ついにぐすぐすと泣き出すイヴァン。その顔も可愛いななんて思ってしまうのだから、だいぶ夢に毒されたのだと思う。
「ほら、二本目だぞ」
「うう……」
彼はそれをもう見たくはないらしく、床を見ていた。白い首を涙の筋が濡らしている。
顔が見たい、とアルフレッドは思った。
次第にほぐれだしたそこが三本目の指を入れた時、イヴァンは微かに身じろいだ。
もはや逃げられるとは思っていないだろう。体に力は入らず、熱は冷めることがないまま。

ついにアルフレッドは覚悟を決め、指をずるりと引き抜いた。そして熱を持った自分のものをひたりと当てる。
「……っ」
イヴァンが、唾をのみ込む音がした。
アルフレッドは、ゆっくりと腰を進めた。
「……う、ぁぁ………あ、あ……」
イヴァンは苦しそうに呻き、何とか逃げようと身をこじらせた。尻が高く上げられたまま、ぐちぐちとアルフレッド自身が埋め込まれていく。
それから逃げようと体を捩じらせるイヴァンだが、それを許さず更にアルフレッドは腰を打ち付ける。
「あああっ!!」
「見ろよ…イヴァン、入った、んだぞ」
「うぁっ……くる、し………」
けほ、と微かに咳き込み、イヴァンはぼんやりと上を向いた。瞳が涙でぐずぐずに濡れ、今にも流れてしまいそうだった。
「イヴァン、イヴァン……」
いきなり動かすのは流石にきついだろうと考え、ゆっくりと、ゆっくりと動く。
引き締まった媚肉はきゅうきゅうとアルフレッドのものを締め付け、きつくはあったが強い快楽を生み出した。
勘ではあったが、彼の気持ちよさそうなところをゆっくりと探す。一際彼が感じる部分だ。
やがて、ゆっくりと腰を動かしていると、一際体が跳ねた部分があった。
「ここかい?」
「っ!!」
ぐい、と体を引き寄せ、更に奥へぐっと押し込むと、甲高い声が上がった。彼の体が力なく震える。
「あ、はっ。君のイイところ、見つけたんだぞ」
「や、ぁぁ……そこ、だめぇ……っ!あ、ああ…は、ぁぁあ、いやぁ、んん!」
体が艶めかしく跳ね、アルフレッドを快楽の淵へと誘い込む。
彼の体へ、生み出される快楽へ、溺れていく―――――




夢よりも現実は格段に強烈な快楽を引き起こし、アルフレッドはあっけなくイってしまった。


















「最低」


「…何だい、君だって最後は随分よがってたくせに」
苦し紛れに言った反論は、次の言葉で見事に打ちのめされた。
「君、自分のしたこと分かってる?僕、嫌だってあれ程言ったのに。君がしたのは完全にレイプなんだよ」
その声に、同情や諦めなどあろうはずもない。あるのは静かな怒りだけだった。
イヴァンのそんな様子に、アルフレッドはあっさり返す言葉を失う。

「――で?君の見た夢って、こういうことだったわけ?」
まさかここでそんな話にふられるとは思わず、アルフレッドは顔を上げた。
「……」
「どうなの?それとも都合よく「違うよ!」
「じゃあなんなのさ」
「俺が…イヴァンを抱いてて……ああでも、君は無理矢理じゃなくて、俺を欲しがってたけどぶふっ」
飛んできたのはクッション。勿論イヴァンが投げたものだ。

「何するんだい!」
「君がそんな恥ずかしい夢を見るからでしょ!!」
大体何?君ってそんな気があったの?巨乳の美人が好きとか言ってなかった?聞きながら、イヴァンも混乱しているのか、ほんのり顔が赤くなっている。

(かわいい)

そう考える自分も、もしかしたら混乱しているのかもしれない。


「……じゃあ、さ。夢に見たのが僕じゃなくてアーサー君とか、フランシス君だったらどうするの?」
「………」
「多分、同じ事をしたんじゃないの?」
否定はできなかった。
だが、正直彼等を抱く夢は……勘弁してもらいたい、というのが本心である。

当のイヴァンだってそうだったのだから。
第一、自分は至ってノーマルな筈だ。彼を抱いてしまった今となっては、それも怪しいところだが。

「それはないとは言えないけど……多分、君だからこんなこと、したんだと…思う」
「何それ、そんなに僕のこと嫌いなの?」
イヴァンは顔を顰めた。
「そうじゃないよ!だって夢を見たから同じ様に抱かせて下さいって君に言ったら、君はすんなり受けてくれるかい?」
「それはないかな。とりあえず頭殴って目を覚まさせてあげないとって思うよ?」
イヴァンならば、それもやりかねない。
「だろ?だからさ。……でも、俺のしたことは悪いことだからな。…ごめん、イヴァン」
「………」
「でも、俺君のこと…諦められそうにないんだ。それも、ごめん」
「え……それって、どういう」
「こういう意味だよ」




ちゅ。





「………」
「だから…さ。まずは…友達、から始められない……かな」
イヴァンもこれにはさすがにぽかんとなっていた。
「君って…あんなことしたわりに、そこは奥手なんだね……ふふっ」
「わ、笑わないでくれよ!これでも……本気なんだ」

「……ふーん…」
イヴァンはじっとアルフレッドを暫く見ていたが、やがてゆっくりと体を起こした。
無理矢理無体を強いられた所為で、動きは酷くゆっくりではあったが。
「イヴァン!」
「……友達、ね。……ならちゃんと、行動で示してほしいなあ」
「!」
そっと伸ばされた手を、優しくアルフレッドは包み込み、彼の体を支える様に寄り添った。
「それは…駄目じゃない、ってことかい?」
「さあ?好きに解釈してくれて構わないよ」
くすくす。







イヴァンがどこか楽しそうに笑うので、アルフレッドは思わず
「絶対君を落としてみせるんだぞ!!」と大声で叫んでしまい、皆にばれることになったのは―――
また別の話。
















End

夢が現実になる米露。
イヴァンがあんなことをされてもこれで済んでいるのは、きっとアルの「友達になりたい」という
言葉をどこかで喜んでるからです。 きっと。 個人的にアルのことが嫌いなわけじゃないイヴァン。
いつか改めて漫画で書きおこしたいかも。
2013,8,22






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