クッキー・トーチカ







「…っうまいんだぞ!」
「……あのねえアメリカくん」
カチャカチャと派手な食器の音を立てて、目の前のアメリカは美味しそうに食事を掻き込んでいる。
ちなみにその食事はもうお代わり5杯目に入っている。
「だって、…これ、うまいっ、んだぞ!」
「物を口に入れて喋らないの」
「食事は楽しく食べる方がいいだろう?」
「楽しく食べるってことはいいけど、君は煩いだけだよ!」





…はぁ。どうして、いつもの静かな食卓に煩い彼が居るんだろう。





それは、唐突に「君の家のご飯が食べたいんだぞ!」とアメリカが言ってきたからであって。
ロシア人はよく自宅に招くことが何よりの歓迎だなんて言うけれど、これは僕の意思じゃない。
しかし、彼を見ていれば本当に美味しそうに食べるものだから、決して嫌なわけじゃない。そうじゃないけれど。
「ああもう、零し過ぎだよアメリカくん!」
ロシアは彼が溢す食べかすを丁寧にまとめてやる。しかしその後から後から、彼はぽろぽろ零すからきりがない。
「はっへふまいんらもん」
「………」
一つもロシアの言うことを理解していない彼に、思わずロシアは頭を抱えた。

やがてアメリカの子供じみた世話をするのを諦め、自分もスープに口を付ける。
アメリカが来たからとかそういうわけじゃないが、味はしっかりしている。
ロシアがそうしてゆっくり食事を味わっていると、アメリカがじっと見つめてきた。
「なに?もう食べたの?」
お代わりならキッチンだよ、と言おうとすると、アメリカがすかさず口を挟んだ。
「いや、君の食べてるもの、美味しそうだなって」
「…あのね、君と同じ食べ物だから、これ」
「皿を指さすのは行儀が悪いんじゃなかったのかい?」
「そうでもしないと君、分からないでしょ」
つん、と彼の鼻を小突いてやる。アメリカはぱちくりと瞬きをした。
全く。ロシアは呆れずにはいられなかった。変なところばっかり知っていて、基本のところはしっかり抜けてるんだから。
「少し分けてくれよ」
「あのねっ、だから言ってるでしょ、同じだって…」
ロシアが止めようとするのも押しのけ、アメリカはスープに口を付けた。
「…同じ味だ」
「だから言ってるでしょ」
ロシアは呆然とするアメリカを見て、何度目か分からないため息を吐いた。






「ああ美味しかった!ごちそうさまなんだぞ!」
カラン、と大きな音を立てて皿を投げ出し、満足げにアメリカはお腹をさすった。
「お願いだからそんなところで寝そべらないでね、後片付けだってあるんだから」
「分かってるよ!」
アメリカは素直に立ち上がり、自分の使った食器を纏めてキッチンに運んだ。
「…でも、驚いたんだぞ。君って料理できたんだな」
「そりゃあある程度はね。そういう君はできるのかな」
「ん?俺は断然フォストフードだからな!料理はあんまりしないよ。HAHAHA!」
アメリカは誇らしげにきっぱりと言い切った。実に爽やかだが、言葉としては情けない。
「そこは胸張って言うとこじゃないでしょ…」
まあ彼の兄だってお世辞にも料理が上手いとは言い難い。想像はだいぶつくが。
こういう時、フランスが兄だったらどうなんだろうと思ったりもする。
まあ、愛を振りまく変な性格が移らなかったことは幸いだ。
「あんまり食べ過ぎちゃ駄目だよ、それこそ本当に太っちゃうよ?」
「なんだい、心配してくれてるのかい?」
「太ったらそれこそ目も当てられなくなっちゃいそうだからね」
「心配に及ばないさ!なんたって俺はヒーローだからね!」
理屈が通っていない。
「君ってほんと、頭の中までハンバーガーだよね…」






「そういえば、今日は今朝から晴れてるな。珍しいなこんな時期に」
アメリカは思い出したように、部屋の窓を開けた。爽やかな空気が中に入ってくる。
「…そうだね。君が来たからじゃない?」
「え?」
「…何でもないよ」
微かに呟いたロシアの一言は、アメリカの耳には届いていなかった。





ただ、なんとなくそう思ったのだ。アメリカは煩くて、迷惑で、それこそ何人分もの賑やかさを持っていて。
そんな君が来たから、天気も不思議と晴れてるんじゃないか、そう思ったのだった。
太陽みたいな、向日葵みたいな、金色の髪をしているし、広く雄大な空色の瞳。それは全部僕にはないものだ。





「ロシア!今日はどこか出かけないかい?」
「えっ…」
「だって、こんなに良い天気なんだぞ。家に引きこもってたら勿体ないよ!」
「…そうだね」
アメリカはとても眩しい笑顔で、ロシアを見ていた。
ロシアは自然と目を細める。





「…やっぱり、君が来たからかな」

今日が、こんなに晴れたのは。
















End

ほのぼの米露。めりかが普通に喜んでればろたまも一緒に喜んでると思う。
2013,8,21






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