始まりはいつも傍

友情は空の下




誓いを立てて 

今 僕は


歩き出す………









雪の雫





「…くしゅっ!」
「あれ、風邪?」
「いや、あんまり寒かったものだから」
「そっか。無理はするなよ?」
「分かってる」
そんなやり取りが、相変わらずだが朝の出来事だった。




今日は大晦日、つまり年の終わり。
案の定、というかやっぱり寒い。
朝から昨日よりも寒い、などと考えていたら、午後になって雪が降り出したのだった。
毎年この日は雪が降っていて、朝はセインの寝起きが酷いものだった。


しかし、そんな事も一旦置いておく事にする。
なにせ、今日は明日に向けていろいろとしなければいけない事が多いからだ。
一番大変だったのが、部屋の整理であった。

この仕事もまた、毎年恒例の、と言っても過言ではないか、
最悪(?)な事に、ケントはセインと同じ部屋を共同で使っている。
セインは普段此処に居る事は少ないが、戻ってくる度に何かしら物を置いていくのだ。
ろくに整理をする事も無く、ケントが時折片付けなければ、あっという間に部屋は物で埋め尽くされてしまうだろう。


結局は、毎年この日も改めて部屋を見直した訳だが。






………汚い! とにかく、大人二人が過ごす部屋の広さでは無い!





……毎回そう心の中で叫んでいた様な気がしなくもないのだが…

とにかく、手を動かさなければこの状況は変わらない。
明日から新しい年になるというのに、これではあまりに情けない年明けになってしまう。
そう考えて、地道に手を動かす事に専念する。


大体あいつは何処へ行ったのか。
「出かけてくる」と単純なメモを残してケントの前から風の様に消えてしまった。
そんな事はいつもの事だが、こんな時に限って、と溜息を漏らさずにはいられない。

「はぁ……」

部屋の中だというのに、微かに息が白く見えた。
気が付けば、もう時刻は夕方。
部屋は次第に落ちた影を伸ばし、部屋全体を暗くしている。





………ふと、今日中にこの部屋は片付くのだろうか、という不安が過る。
いつもなら、セインが居た―――

あれやこれやとてきぱき指示して部屋を片付けさせていくケントに、
セインは文句を言いながらも手伝っていたものだった。
それが、今日はこんな時間になっても戻ってこない。

また外で女性でも口説いているのだろうか……
もしくは、今日は部屋の整理だと知っていて戻ってこないのか……




なんだか、心の奥底でキュ、と縮まったものがあった。



「…………」







どれくらい、そうしていただろうか。








―――――キィ…




「……あれ、どうしたケント」

「……セイン?」
思わず、ケントはゆっくりと振り返った。

「…ていうか、この部屋暗っ! 明かり、つけろよ?」
「……煩い」
「酷っ、それにしても…改めて見ると酷いなぁ――…」
「誰の所為だと思っている!大体お前が…」
「やっぱり俺が居ないと駄目だねぇ、ケントだけじゃ辛いよ、これ」
「自惚れるな、馬鹿者」
「……ごめん、すぐに戻ってこれなくて」
「…何処に行っていた」
「ああ、そうだった」

するとセインは、一回部屋を出て、暫くして何かを持ってくる。

「…それは?」
「紅茶だよ、丁度切らしててさ。…いつものが無くて、あちこち回ってた」
「今日でなくても…」
「だって、朝ケントも寒そうだったし。これで温まってくれればなーと思って、さ」
「別に同じものでもなくて良かったのに」
「だってこれ、ケントが気に言ってるでしょ?」
そうにこりと笑って、ポットに静かにそれを注ぐ。
その途端に、ふわりと香りが広がった。
「……良い香りだ」

「それと、これ」
「? 花?」

セインが差し出してきたのは、純白の雫の様な、可愛らしい花。

「綺麗だろ、帰り道で見つけて思わず採ってきちゃった」
「綺麗だが…何という花だ、これは?」
思わず、差し出されるがままにそれを受け取ってみる。

「スノードロップっていう花だよ」
「…可愛らしい名前だな」
「ねぇ、知ってる? 新年の前にその花を見ると幸せになれるって」
「そうなのか?」
「うん、だから俺とお前には幸せがくるんだよ!」
そう言うセインは、とても楽しそうだ。

「……唯の言い伝えだろう、それは」
「えー?いいじゃない、それにこの時期にその花は普通咲いてないんだよ?」
「……そうなのか…」
それだけでもラッキーだね、と言うセインの雑学に、思わず感心してしまう。
同時に、密かにセインの言葉に素直に喜んでいる自分も居た。

この、可愛らしい一輪の花。
「名前の通り、雪の様な花だ…」
思わず、それをまじまじと見つめて、ケントは微笑んだ。



「――さぁ、これ飲んだら一頑張り、しますか!」
そう言って、セインは伸びをする。

「セイン」
「ん?」
「その……ありがとう」
「………ん」
セインは頷いて、一気に紅茶を飲み干した。
そんな彼からも、紅茶の良い香りがふわりと漂った。



―――今年も良い年だった、とケントは思い起こす。







「――そうそう、その花にも花言葉があるんだよ」
「どんな?」
「“希望”だって。…どんな時でも、諦めないで希望を持って、ってね」
「……良い言葉だな」

「でもねぇ」
「?」
セインは、ふわっと笑って。

「俺がその花を送った意味は、もう一つあるんだよ」


そっと、言葉にする。


密かな、想いを。











「初恋の、眼差し」











程無くして、ケントの顔が鎧に負けないくらい真っ赤になるのを見る。

「……な、な……」
「からかってるんじゃ、ないからね?」



そう。 本気、だからね?








闇に光る性
夢に描いた未来を探して
初めて誰かの為に
今 僕は生きていると
感じられたんだ

護りたい
ものがあるんだ
もう二度と
二度と失わないように

この胸にある願い
離れる事が無い様に
僕は 君に傷付いてほしくはないから
いつでも 笑っていてほしいから
今 僕は刃を握る

斬り裂いた
記憶の中
溢れ出す 明るい光の中に赤い影を見る

この術が
ひび割れても
護りたい大切なものなら……

遥か遠くへ
ああ持っていかないで
夜に花開く 君の本音

護りたい
ものがあるんだ
もう二度と
二度と失いはしない

鳴り響け
誰よりも思う
誰よりも愛す君への想いを……











来年もまた、君の隣に在れます事を。



どうか、君と俺に、ささやかな、幸せを。











End


こんな風に甘いセイケンは久しぶり…かもしれません。ほのぼのな年越し、というのもいいのではないかなと。
はい、こんなささやかな(?)告白ってのはいかがでしょうか(問うな
ちなみにスノードロップは「死の象徴」としても扱われる場合があるそうですが…そっちは無い方向でね←
つまりはここから始まる、みたいな(何が



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