<願いは君と>



今日はハロウィン。


ヨファやミスト、ボーレ達はいいと断るアイクを引きずって、仮装してお菓子を貰いに行ってしまった。
その後から、ワユがキルロイを引き連れて元気よく駆け出していく。
そんな見ていて微笑ましい光景を、ティアマトとオスカーはにこにこと眺めていた。

「ボーレも…まだまだ子供ねぇ」
「ふふ…そうですね」

去年は戦争もあって、全くこういったイベントを楽しむ余地など無かった。
が、今年はようやく落ち着き、余裕もだいぶ出来てきたから出来た事だった。


「あの子たちのああいう顔がずっと見ていられればいいわね」
「えぇ、本当に…」
ティアマトとオスカーは、まるで夫婦が子供を眺めているといった雰囲気で、彼等の事を話していた。



「…さてと」
「? 何かするの?」
「ええ。皆が返ってくるまでに、パンプキンパイでも作っておこうと思いまして」
そう言って、オスカーは重たいカボチャを持ち出してくる。

「……私も何かあの子たちにお菓子でも用意してあげようかしら」
そう呟いて、ティアマトはその場を出ていった。


皆、帰ってきたらどんな顔を見せてくれるんだろう……

そう考えると、独りでにオスカーの顔は綻んだ。



その時。


ガタガタッ………


「?」
オスカーは誰かが戻ってきたのかと思い、入口の方へ出る。
するとドンドン、と戸を叩く音が聞こえたので、アイクかな、とも思い、戸を開けた。
すると同時に、


「オスカー! 貴様か!!」


突然の大声に、耳がキィンと響く。

「…………ケビン……?」
その、まさかの彼だった。

「久しぶりだな!! 会いたかったぞ!」
「私は別に…」
「何を言う! 折角俺が来てやったというのに…」
「…というか、私は来てほしいとは一言も……」
オスカーはいつもの様に受け流そうとするも、ケビンはいつも以上に喰らいついてくる。

「今日は何やら面白い日だと聞いてな」
「いや、だから……って、何だその手」
「ん? だって今日はお菓子を貰う日なのだろう?」
そう言って、素直に手を差し出しているケビン。
「それは、普通子供が貰うんだよ……」
半ば呆れつつも、オスカーは丁寧に教えてやる。
「そうなのか!? 折角来たというのに……」
そしてそれを聞いてがっかりするケビン。

「…というか、それは何も私の所に来なくても……」
「いや、俺はお前に貰いたくてな」
「……何で?」
今度はオスカーの方から聞いてしまう。
本来なら、ここは言葉を濁すところなのであろうが、ケビンは違った。

「俺の好敵手で、お前の事が好きだからだ」

「………」





よくもまぁ、ここまでさらりと言ってくれたものだ。
この言葉を、女性に言ったらさぞかしかっこいいものだと思うのだが……


「ケビン……その言葉、後の方は違う相手に言うべきなんじゃないかな…」
「む? 俺は本当の事を言ったまでなのだが…」
「そう……」


本当に、何処までも素直なのに…残念だと思った。
その本当の想いは、もっと……、違う人に向けるべきだと思う。


「……折角来てくれたんだ、少し待っててくれればお菓子があげられるよ」
「……本当か!?」
オスカーがそう言った途端、目をきらきらと輝かせるケビン。
まるで、尻尾があったら全力で振っているだろうかとも思える程、喜んでいるのが分かった。


「ただ、今作ってる途中だから、少しかかるけど…」
「あぁ、お前がくれるというなら俺は待ってるぞ」
ケビンはそう答えて、大人しく椅子に腰かけた。


まだ、時間には余裕があった。
けれども、ケビンが折角待ってくれているのだから、彼を待たせる訳にもいかない。
オスカーは夢中で作っていた。



……その為に、背後に彼が近付いてきている事に、全く気付かなかった。





「………なぁ」

「え?」

「お菓子もそうだが、こっちも頂いていいか?」
ふわ、と彼の体温を感じ取り、オスカーは振り向く。
実際には、“振り向こうとした”のだった。




「………」




かしゃん。




オスカーが手にしていた器具が手から滑り落ちる。

オスカーの唇は、ケビンの唇によって塞がれていた。




その優しい接吻は、微かに触れて、すぐに離れていった。


「……!? ケ、ケビン!?」

「…いや、あんまりにも我慢が持ちそうになかった」

我慢って何の事だ、そう言おうとしても言葉が上手く発せられなくて。
どうしてか、彼の瞳から視線を反らす事が出来なかった。


「……器具が落ちたぞ」

「……っ! だ、誰の所為だと思って…」

「早く作ってくれんと、待ちきれないでもう一回こっちを頂くぞ?」

「!! 馬鹿……!」


はっは、と笑うケビンの方を振り返りもせずに、オスカーはひたすら手を動かし出した。
もう、どうしてくれるんだ……と頭の中では困惑しながらも。
オスカーはそんな彼と居るのが、嫌ではない自分も居る様な気がしていた。




End




今年のハロウィンにてフリーにしていた小話です♪

ケビンは甘いモノ好きなのかなぁ……? でも、オスカーが作ったものなら何でもおいしく食べてあげそうですv
甘い話になってれば……いいかなと。



戻る